住職のお話し
12)提婆達多品(だいばだったほん)の供養
私は毎朝春慶寺有縁の御霊に対して、法華経全28品(章)の第12番目『提婆達多品(だいばだったほん)』をあげてご供養しております。提婆達多とはお釈迦様のいとこにあたる方で、その優れた人格を慕って多くの弟子が集う立派な教団を指導していたのですが、何につけてもお釈迦様には一歩及ばず、次第に嫉妬に狂いお釈迦様の修行を妨害したばかりか、ついには狂った巨象を向けたり巨岩を崖の上から落としたりして尊い命までも狙うようになったのです。彼は自らの不注意で池にはまって亡くなり、仏に危害を加えた罪で無間地獄に落ちたとされていますが、お釈迦様は弟子たちに次のような話をされます。
過去世のあるとき某国の王が正法(真理)を求めて国中を歩き回り、ついに阿私仙という仙人にめぐり合って、政を王子に託して出家されます。仙人のために木の実草の実を集めて食事の用意をし、薪を拾い、自身の体を椅子代わりに仙人の座っていただくなど身を尽くして給仕し、正法を体得していったのです。あるとき阿私仙はこの弟子がいずれは自分を超える魂であること、そればかりか来世仏となって世を救うということを悟りました。仏がこの世に出現するとき、その存在が歴史に深く刻まれるためには、キリストにユダが存在したように強烈な敵役が必要です。阿私仙は、愛弟子が成仏するために自身が未来世無間地獄に落ちることを天命として覚悟されました。この仙人こそ今世の提婆達多であり、その時の王とは私だったのだよと語られるのを聞き、弟子たちは、二人の因縁のあまりの深さに声も出ませんでした。お釈迦様はさらに続けて、提婆達多が来世必ず仏となることを説き、その仏の名を明らかにされたのです。
『この世で会う人皆仏の化身と思え』という言葉があります。誰にも必ず提婆達多は存在します。その因縁は人智では計り知れません。この因縁を省み、自己の魂の成長の糧としてあらゆる出会いを仏縁として感謝し、先祖への供養にいそしんでまいりたいと存じます。